激安アパートの隣の部屋

俺は大学に合格して、この春から上京して一人暮らしを始めることになった。

合格が決まってから少しバイトしたりもした。親からの仕送りもあるけどそう多くない。

ちょっとは自分で稼いでみようかとも思ったり。まあ金はないんだけど、

それでも何とかなるアパートを探すことにした。

不動産屋に行って、安いアパートを探してみる。

その中で、まあワンルームで六畳一間なんだが、

安い物件を見つけた。なんと月に1万5000円でいいらしい。

もより駅から10分くらい。ここにすることにした。

不動産屋で、その物件の写真を見せてもらったんだが、

確かにぼろそうだった。そして、

実際に見に行ってみる。写真通りにぼろぼろのアパートだった。

耐震性とか大丈夫なのか心配になる。震度ゼロで倒壊しそうな気がする。

不安がないでもないけど、鐘がない時点で選択肢もないので、

このアパートに決めた。まあ引っ越しなんかもすぐに終わった。

荷物もそんなになかったし。住み始めてみた感想。

古い木の床がきしむ。ドアを閉めると静かになったけど。部屋の隅には薄暗いシミがいくつもあり、

不気味に思えて来た。幽霊でもついてるんじゃないだろうか。

事故物件ってことはないと思うけど。きしむ音とかドアが開きにくいとか、

そんなくらいでまあ、特に異常はなかった。

ただ1か月くらいしたころかな。大学生活にもちょっと慣れてきて、

まあ友達もできたなってくらいのころ。アパートの隣から変な音が聞こえだした。

隣人に誰が住んでるのかは知らない。張り切って引っ越しの挨拶にも行ったけど、

誰も出なかったし。用意した挨拶用の洗剤が無駄になった。

変な音は日に日にエスカレートしていった。始めは夜中に小さな物が床に落ちるような音。

次第に、引きずるような重たい音へと変わっていく。

夜更けには、誰かが囁いてるような声まで聞こえてきたんだ。

一晩中、隣の部屋を行き来する足音と、

ひそひそとした会話。友達に相談しても、

「お前、怖がりすぎだよ」

で終わり。俺も気にしすぎかと思ったけど、

音は日に日に大きくなっていく。隣の部屋から漂ってくる異様な気配。

俺は不動産会社の人にお願いすることにした。「隣の部屋から変な音がするんですけど何とかなりませんか?」

そういった。しかし不動産屋は、

「いや、隣にはだれも住んでないですけどねえ」

まじかよ。じゃあなんでこんなに音がするんだろ。

明らかに誰か住んでると思うんだけど。深夜になると耳を塞ぎたくなるような騒音が。

たまには床を叩くような大きな音や、壁を引っかくような音まで聞こえてくる。

俺はおかしいと思って、何より、

うるさくて頭おかしくなりそうだったから、不動産会社の人に真面目に頼んでみることにした。

「すいません、やっぱり音がするんで調べてもらえないですか?」

そういって調べてもらうことにした。で、

調べてもらった結果びっくりすることになった。なんでも空き室のはずだったが人が住んでた跡があったらしい。

驚いたが、不法に侵入してた人がいたようだ。

で、当然警察に通報することになったわけだ。

もう完全に犯罪だしな。それで、

逆に安心したんだよね。幽霊とかじゃなくてただの人だったのか―って。

いや、それも怖い話なんだけどさ。

タネがわれたらこんなもんかって。なんか想像ふくらまして勝手に怖いことにしてたからさ。

まあほっとしてたんだけど。それでしばらくしてから、

警察の人から連絡あったんだよね。ちょっと事情を説明することになったっていうか。

それで聞いてみると、どうにもその不法に住んでた人っていうのが、

1年位前に遺体で見つかってたらしい。隣の住んでた跡っていうのも、

俺はてっきり数日前まで、住んでたような跡だったんだと思ってたけど、

まあ1年くらいは人がいなかったような感じだったらしい。最近まで音がしてたんですけどって伝えたら、

警察の人も間違いないですか?って何度も聞いてきたけど、俺は間違いないって聞こえた。

俺の勘違いであってほしかったけど。まあ、

その人とは別の人が住んでたのかもしれないけど。だとしたら不法に住んでる人多すぎだろってなるけど。

なんにしても、そのアパートからは出ることにした。

あまりに気味が悪すぎたし。もうそれからそのアパート近辺には近づいてない。

せっかく安く住めてよかったんだけど。まあ安いところはなんかあるわなー。

都内で1万5千円はさすがに安いし。隣の部屋から聞こえる音が、

勝手に住んでる奴だったのか、それとも俺の知らないなんかだったのか。

俺の唯一の恐怖体験です。駄文でごめん。

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