ずっと前の話だ。携帯とかはガラケーが主流でなんなら持ってる人も少なかったくらいのころ。
おれはレンタルビデオショップでバイトしてた。当時は大学生だったんだけど、
まあ楽そう打なって言う理由で、適当にバイトしてたわけだ。
大学いきつつバイトは大変だったけど、カネはなかったし仕方なかった。
あとはビデオとか映画も好きだったし。そんな理由もあったから、
思い返せば大変ってほどでもなかったかな。まあ、
時間とられてきつかったけど。
で、まあ俺はホラー映画とかが好きなんだよね。
ゾンビとかシャーク系とか。
B級映画とか好き。なんか誰も見たことないだろっていうのを、並んでる棚から見つけるのが趣味だった。そういうのもあったから、レンタルビデオの仕事は向いていたかもしれない。
で、ある日のことだ。
店の奥から、なんか変なビデオテープを見つけたんだ。
古い、ほとんどノーブランドみたいなケースに入っていて、ラベルには手書きで何か書いてあった。
文字は薄くて読みづらかったけど、「見るな」とかそんな感じの警告めいたことが書いてあるように見えた。
まあ、そんなん見たら逆に気になるじゃん?
オレはホラー好きだし、ちょっとくらい変なの見たって平気だと思ってた。
ある日の休憩中、店の中でそのビデオを見ることにしたんだ。ちょっとだけのつもりで。
店の奥にある小さな休憩室で、古いビデオデッキにテープを入れて、再生ボタンを押した。
始まりはただの白黒の映像で、特に何が起こるわけでもなく、ぼんやりとした風景が続く。
風景ってのは、街の道路とか、なんか森のなかとか。ほんとにただ映してるだけ。
ノイズとか走ってて画質も悪かった記憶がある。
いや、なんかすっげえテンション上がってた。
個人で撮影したみたいな、なんか雑に作ったような映像だったからさ。
なんだけど、なんかずっと見てると気分が悪くなってきて、映像の中に何か動く影がチラチラ見え始めた。
人影みたいな。
背景がいろいろ変わってるんだけど、その中で右の決まった位置に、人影が浮いてきてるっていうか。
だんだんハッキリしていくんだよ。
俺、それをずっと見てたんだよね。
すげえ気になってさ。
ほんとにゆっくりだけど段々と、ハッキリしてくる。
もうちょっとで顔が見えそうってところで、
「すいませーん」
ってレジの方から声が聞こえてきた。
お客さんだった。
カウンターにベル置いてあって、それを鳴らしてたんだけど、俺が気づかなかったみたい。
休憩の時間も終わってるし。
店長もいたけど、レジから離れてて気づかなかったみたいで。
お客さんを待たせてしまってたようだった。時計を見るとビデオみてから、
20分くらいたってたのかな?
客おおい店じゃないけど、それくらいほったらかしてたら、そりゃ客の一人は待たせることになる。
「あ、すいません、すぐに」
申し訳なく思いながら、あと、さぼってたことばれてしまったなって、バツの悪い感じでレジに向かった。
お客さんのレジを済ませて、またビデオの前に戻った。
すると、人影は写ってなくて背景だけの映像に戻ってた。
俺が見てたところだけ、人影が写ってたのかな。
しかし、背景が変わるだけでなんのメッセージっていうか、ストーリーもない映像だな。
俺は閉店後にまたそのビデオを見てみることにした。
今日はビデオ夢中になってやらかしちゃったけど、普段はまじめだから結構信頼されてたんだ。
そんなわけで、閉店後の処理とかも俺がやってて、で、遅くまでビデオ見てることもあったりした。
その人影が何だったのか、どうしても知りたくてね。
でもあのビデオ、先に進めたり戻したりする機能が壊れててさ、一回止めたら最初から見なきゃいけないんだ。
だからまた見始めることにしたよ。
疲れてたけど、あの影を見たい一心で。夜中、店じゅうに静けさが広がっていく。俺はビデオを見つめ続けた。
だんだん目が重くなってきて、ちょっとだけうとうとしてしまったんだ。
「・・・っと?」
目を開けると、そこには…。
ビデオの画面じゃなくて、店内のど真ん中に、俺が見ていた人影が立っている。
でも、こいつはビデオの中の映像じゃない。
リアルに、ここにいる。
背筋が凍る感じがして、一瞬で眠気が吹き飛んだよ。
その影は俺をじっと見つめている気がして、俺は動けなくなった。
「は?……え?」声にならないほど小さな声で呟いた。
すると、その人影はゆっくりと近づいて来て、今にも触れそうな距離まで来たところで、突然、消えたんだ。
ビックリして周りを見回したけど、もうどこにもいない。
冷たい汗が背中を流れるのを感じた。
もうビデオは見る気になれなくて、すぐに店を閉めて家に帰った。
次の日に、俺は店長にビデオについて聞いてみた。
「店長、このビデオ何かしってます?」
「なんだそれ?知らないぞ、客が返却した中に違うやつが混じってたんじゃないか?」
「そうすかねえ」
多分、ちゃんと流通してるビデオじゃないだろう。
まあそりゃそうだ。
こんなの映画? 売れるわけないし。もう気にしなくていいかと思ってたけど、
俺は最後にもう一回ビデオを見てみることにした。
閉店後、ビデオを再生してみる。
前に見たとおりに、背景が変わっていく。
道路、森のなか、またどこかの道路。
そして、ぱっとまた背景が変わる。
このレンタルビデオ店だった。
「え?」
たまたま写ってただけ?
いや、前に見たときはこの映像はなかったんじゃ。
恐怖で背筋が凍りつく。
「これ、なんだ…?」
声が震えてた。
画面から目を離せないまま、何度も何度も映像を確認する。
映像は俺のいるビデオ店の中に入り、そして、俺が休憩してる部屋まで。
「うわあああ」
そこで俺はビデオを止めた。
休憩室の入り口を見る。
何も変わった様子はない。
かなりびびりながら、ゆっくりとドアを開けてみる。
店の中は誰もいない。
「なんだこのビデオ」
俺はそのビデオを処分することにした。
店長に聞いたら、
「誰かが個人で作ったもんだろ、別に興味ないし捨てちゃってもいいよ」
いろいろ適当だった店長はビデオについてそういっていた。俺もこのビデオを早く捨てたかったので処分した。
まあ、そんなことが、レンタルビデオ店があちこちにあった時期に経験した話。
それから、しばらくそのビデオ店でバイト続けてたけど、まあ就職とか忙しい時期になって普通にやめた。
その店ももうつぶれちゃってる。今じゃレンタルしなくても、いろんなネットサービスで見れるから、レンタルビデオ店まで見に行くことも少なくなった。
ただ、やっぱりネットサービスだけじゃ見れない映画とかもあるから、たまにビデオ店、まあ今ならビデオはもうないけど、レンタル店にいったりする。
たくさん並んでる棚の中に、あの映像が収まってるディスクがあったりしたらと思うとちょっと怖い。次に見たらどうなってしまうのか、あの映像の続きがどうなっているのか。俺に近づいているように見えた映像を収めているカメラが、俺のところまで来たらどうなるのか。
ちょっとっていうかめちゃくちゃ怖い。