中学生A子と蛇の呪い

中学生のA子は最近疲れていた。
学校の人間関係、勉強、部活、そういった中学生ならではの環境もあったが、何よりもこころをけずることがあった。

A子には誰にも言えない秘密があった。
それは、毎晩夢に現れる不気味な影。
そして、ハ虫類をおもわせる縦に切れている瞳孔。
影は、A子に近づき、耳元で何かをささやく。

目が覚めると、体中に奇妙な痣ができていた。

それはまるで蛇が這いずりまわったような跡だった。
ある日の放課後、A子は一人で教室に残っていた。
「疲れた。もう最近寝不足なのに……」

A子が残っているのは、担任に生徒が提出した意見が書かれたプリントを、

まとめるように言われていたからだった。
めんどうくさい。

全部ほうりなげて帰ってやろうか。
嫌になって、なんとなく窓に目をやる。
木の枝が目にはいる。

そして、その枝に蛇がぶらんと垂れ下がっているのが見えた。

A子は驚いて目を閉じ、もう一度見てみた。

しかし、蛇はまだそこにいた。

まるで、A子を見つめているかのように。

蛇の目は、夢に出てくる影の目と同じように、

不気味な輝きを放っていた。
突然、教室の電気が消えた。
窓の外は、すでに夕暮れ時。
薄暗い教室の中、A子は息をのんだ。
まだ真っ暗な時間というわけではないが、普段の人の多い騒がしい雰囲気が全くなく、毎日通っている学校とはまるで違う空間に思える。

そして、背後から聞こえてくる音に気づいた。

まるで、何かが這いずるような音。

恐る恐る振り返ると、そこには大きな蛇がいた。

教室の床を這いずりまわっている。
A子は悲鳴を上げようとしたが、声が出なかった。
蛇は、A子に向かってゆっくりと近づいてくる。

「うわ、わ」

A子は逃げようとするが、

なぜか体が動かない。
蛇は近づいてくる。

しゅるしゅると舌を出している。
その時、教室の扉が勢いよく開いた。
「A子、まだいたのか。遅くなったけど…」

担任の先生が、

不思議そうにA子を見つめている。
「せ、先生!」

A子は体が動くようになっている自分に気が付いた。

A子は、蛇がいたところを指差した。

しかし、そこには何もいなかった。

「ん?どうしたんだ?」

先生が不思議そうな顔でA子を見つめている。

「い、いま、そこに……」

先生は戸惑っている。

「疲れているのか。あー無理やり頼んで悪かった。早く家に帰って休みなさい」

先生はそう言って、残っていたプリントを片付け始めた。
A子は、混乱しながらも、教室を後にした。

家に帰る途中、A子は自分の腕を見た。

そこには、新しい痣ができていた。

まるで、蛇に巻きつかれたような跡。

A子は、恐怖に震えながら、家路を急いだ。
A子は家に着くと、ベッドに飛び込んで、そのまま眠ってしまった。

疲れてるし、ぐっすり眠るつもりだった。

夢も見ないくらいに眠れるかも。
そう思っていたが、その夜の夢は今までで最も恐ろしいものだった。
夢の中で、A子は暗闇の中にいた。
そして、いつものように影が現れた。
しかし、今回は影だけではなかった。
無数の蛇が現れ、A子に向かって這ってくる。

「助けて…!」

A子は叫ぼうとしたが、声にならない。

蛇たちはA子の体に絡みつき、締め付けてくる。

息ができない。意識が遠のいていく。
その時、目が覚めた。
夢だと分かっていたが、体中に痛みを感じる。
まるで、蛇に締め付けられたかのように。
A子は恐怖に震えながら、ある決心をした。
このままではいけない。助けを求めなければ。

そう思い、A子は近くの神社に向かった。

神社に着くと、A子は神主にすべてを打ち明けた。

夢のこと、影のこと、蛇のこと。
A子は神主にすべてを打ち明けた。

夢のこと、影のこと、蛇のこと。
神主は真剣に耳を傾けると、しばらく考え込んでいた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「お嬢さん、あなたを悩ませていたのは、邪悪なものではありません。それは、あなたを守ろうとする存在、いわば守り神のようです」

A子は驚いて目を見開いた。

守り神?蛇が?
「あなたは中学校での人間関係に疲れ果て、心が弱っていた。
守り神はそんなあなたを見かねて、学校を休ませようと体調を崩そうとしていたのでしょう。」

神主の言葉にA子は愕然とした。
確かに最近は学校に行くのが辛かった。

でも、それを蛇が知っていたなんて…。

「でも、学校を休んでしまっては問題は解決しません。大切なのは、前向きに生きること。辛いことから逃げずに、立ち向かっていく勇気を持つことです。」

蛇が良いものだったというのはちょっと信じがたかったが、A子は神主の言うことを信じることにする。

「でも、ずいぶん極端なことをしてくるんですね、守り神っていうのは」

そこまでするよりも、人間関係の方を直接なんとかしてほしかった。
A子はそんなことを思ったが、

「守り神といっても、なんでもできるわけでもありませんから。神様のできる範囲で、できることをした結果でしょう」

神主は続ける。
「それに、人間の都合なんて知ったことではないというのが神様です。
そもそもの価値観が違うんでしょう」

「人間関係を直接どうにかしてほしい、というのはよく分かります。

でも、それは神様ではなく、あなた自身の課題なのです。」

神主の言葉に、A子は少し拍子抜けした。
確かに、自分の問題を神様に丸投げしようとしていたのかもしれない。
「神様は、あなたに気づきを与えようとしたのでしょう。
問題から逃げずに向き合うことの大切さに気づかせようとしたのです。」

なるほど、と A子は頷いた。

守り神は少し極端な方法を取ったけれど、私に大切なことを教えてくれたのかもしれない。

「でも、学校もうんざりなんですけど……。どうしたら良いんですかね?」

A子が尋ねると、神主は難しい顔で言う。
「いやー私もそこまでは。中学生のことなんてもう全く分かりませんので」

神主はそこに関しては何も分からないらしい。

「まあ考えてもどうにもならないですよ。それに周りも同じ考えの人がほとんどだと思いますし、普通のことだと思いますけどね」

神主は当たり障りのないことを言った。

だがA子はそれもそうかもしれないと思った。
ともかく蛇の呪いについては分かったのでそれだけでもよしとしよう。

A子はそう思って神主におれいを言って家に帰ることにした。
帰って入浴をして、すっきりした気持ちで布団に入る。
ぐっすりと眠り、気が付けば朝になっていた。
嫌な夢を見ることもない。

蛇の夢を見ることもなかった。
学校に行っても、当然だがまわりは何も変わっていなかった。
神社にお祓いに行ったことも、蛇の夢を見ていたことも誰にも言っていない。
でも、A子の心はどこか軽くなっていた。
守り神の存在を知り、自分を見つめ直すきっかけをもらったからだ。
A子は微笑みを浮かべながら、教室に足を踏み入れた。

まあ少しは良くなるだろう。

A子はそう確信していた。

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