営業がり


俺は現在25歳で、会社員だ。
保険の営業の仕事をしている。
必死に頭を下げて、
こびへつらって、なんとかかんとか営業を取ってくる。
ノルマのためなら何でもする、とまではいかないが、
嘘に近いこともいったり、
人間として、超えてはいけないラインを超えてしまわないか、
心配になる仕事だ。

そんな日々を送っていたある日、いつものように営業先を回っていた。
今日は新規開拓で、アポイントを取っていない飛び込み営業だ。

今までに訪れたことのないエリアだった。
そのエリアは、上司から、
「この辺は、なんか事件多くて物騒なんだよな」
と言われていて、あまり近づいていなかった。

俺もそんなところに行きたくはなかったが、
別に営業で通るだけだし、
ちょっとうろつくだけで、
治安もなにもないだろう。

ほかの営業がいってないなら、
新規に見つかるかもしれない、
そう思って行ってみることにした。

最近は成績もよくなかったのだ。
俺は焦っていたのかもしれない。

夕方近く、最後に訪れたのは町外れの古い一軒家だった。
「すみません、○○保険の△△と申します。少しお時間よろしいでしょうか」

ドアが開くと、そこに立っていたのは年配の女性だった。
「あら、こんにちは」
スーツ姿の、営業という感じのしている風体の俺を、
その女性はこころよく迎えてくれた。

玄関の先で熱心に保険の説明をする。
いつ入院することになるか、おかしくない。
そんなことを言って不安をあおり、
もしもの備えが必要だとせまる。

話を聞き終わった女性が口を開いた。
「うーん、いい話だとは思うんだけどねえ……」
感触は良くない。

ここもダメかなー。
次にいくか。
いくら必死にせまっても、
ダメな家はダメなので、
俺は次の家を探そうと気持ちを切り替えていた。

もう早くこの家をでよう。

挨拶を適当にして、
「わかりました、
本日はお話を聞いていただきありがとうございます。
無駄な時間を取らせて申し訳ありませんでした」

適当に定型句を並べてその家をあとにしようとした。

そのときに、
「ちょっとまって」
と呼び止められる。

「え?なんですか?」
「この家にいってみなさいよ、
ちょうど保険を探してるみたいだったから」
「は、はあ、どうも」

こんなことは初めてだったので驚いた。
営業なんてだいたいけむたがられる。
訪問した家で、こんなに気を使ってもらえることなんてなかった。

俺の態度に好感をもってくれたのだろうか。
やっぱり、愛想はよくしとくもんだな。
そんなことを思いながら、
その女性におれいを言って、
言われた住所の家に向かった。

女性に教えてもらった住所は、さらに町外れの方にあった。
道中、周囲の景色が徐々に寂れていくのが分かる。
人通りもまばらになり、不安を覚えながらも目的地に向かって歩を進めた。

やがて、目的の家が見えてきた。
古びてはいるが、かなり大きな家だ。
敷地も広く、周囲には立派な塀が巡らされている。
「こんな大きな家に、たった一人で住んでいるのかな…?」
そんな疑問を抱きながら、俺はその家の玄関へと近づいた。

玄関のドアはすでに開いていて、まるで俺を待っていたかのようだ。
中から漏れる明かりに導かれるように、俺は家の中へと足を踏み入れた。
「失礼します…○○保険の△△と申します。」

すると、奥から初老の男性が現れた。
「ああ、君が〇〇君かね。
ちょうど待っていたんだ。奥へ通ってくれ。」
男性は にこやかに微笑み、俺を家の奥へと案内した。

案内された女性から話を聞いていたのだろうか?
「では失礼します」
俺は営業が取れそうだと上機嫌でついていった。

広い廊下を進み、一番奥の部屋に通される。
そこは広い応接間のようで、重厚な家具が配置されている。

「どうぞ」
奥さんだろうか。
女性のかたにコーヒーをいれてくれた。
ありがたすぎて恐縮してしまう。
こんなにやさしい家はいままでなかった。

俺はコーヒーを飲み、保険の説明を始めた。

しかし、話をしているうちに徐々に眠気に襲われてきた。
「あれ…?おかしいな…こんな時間に…」
俺は倒れこむように意識を失った。

目が覚めると、俺は真っ暗な部屋の中で椅子にロープで縛り付けられているようだった。
顔にはライトが当てられ、目の前には二人の男が立っている。
「お前も保険の営業か?ざまあみろ。」
そう言って男たちは不気味に笑う。

「ここは営業マンに復讐するための家なんだ。お前らみたいなのを誘き寄せては、こうしてシメるのさ。」
「ど、どういうことですか…?」
俺は混乱し、震える声で尋ねた。

「お前らは人の弱みに付け込んで保険を売りつける。でも、保険金を払う時になると、いろいろと難癖をつけて渋るんだろう?」
「そんな詐欺みたいなことをしていい気になってるお前らを、このまま許すわけにはいかないんだ。」

男は恨みを語り、俺に復讐を誓う。
「さあ、これからお前の罪をさばいていってやる。覚悟はいいな?」

遠のく意識の中で、俺は後悔していた。
上司の忠告を無視して、この場所に来てしまったことを。
そして、このまま命を落としてしまうことを。

「う、うわああああ!」

俺は必死でもがく。
すると縛り付けられていたロープがほどけた。

無茶苦茶に暴れると、男の一人に体当たりをした。
男は、俺のロープがほどけないだろうと油断していたのか、
態勢をくずしている。

男は体が大きいわけでもないようで、
力が強いという感じでもなさそうだった。
俺は走ってドアに向かう。
幸いなことに簡単にドアはあいた。

後ろも見ずに逃げ出す。

必死で家を飛び出し、町の方へと全速力で走る。
後ろから男たちの怒号が聞こえるが、振り返る余裕はない。
ひたすら走り続け、人通りのある場所まで逃げ込んだ。

ようやく安全を確保できたと感じた時、俺は地面に膝をついて荒い息をついていた。
全身が汗でびっしょりだ。
「な、なんだよあれは……狂ってる……」
恐怖に震えながら、俺はつぶやいた。

その後、俺は警察に通報することを考えた。
しかし、結局通報はしなかった。
もう関わりたくなかった。
ほっといたら、また誰かが被害にあうんだろうが、
もううんざりだった。

俺は家に帰ると、深く考え込んだ。
自分のしてきた仕事を振り返り、今後の人生について見つめ直した。
そして、保険の営業をやめることを決意した。
「もう、こんな仕事は続けられない……」

数日後、俺は上司に辞表を提出した。
上司は驚いていたが、俺の決意は固かった。
上司は、
やめ癖がついちまうぞ、
ここでやめたらどこでもやっていけないぞ、
とかいろいろいってたが、
聞く気にならなかった。

こうして俺は営業の仕事を辞めた。
今は求職中だ。
何の仕事をやるかは決めていないが、営業はもうやめようと思っている。

仕事やってなくて暇なので、
思い出しながら書いていた。

明日から求人活動に本気出す。

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