私は心霊スポットが好きで、よくそういうスポットに出かけます。
まあ廃墟、廃屋とか、廃病院みたいな。
このあいだ、友人から廃村があるっていう話を聞きました。
なんでも山の中にいくつか廃屋っぽいのが並んでいるそうです。
私は
「へえ、良さそうだね、今度行ってみようかな」
と友人に話して
「まあいくんなら気を付けて、山の中だしね」
「わかったー」
とやりとりをして、その廃村に行ってみることにしました。
それで、行く前に友人から
「これも持って行って」
とお守りを渡されたので
「ありがと、一応もっていくね」
とポケットにいれました。
心霊スポットをいくつか巡っていて、
今までとくに怖い目にあったことはないんですが、一応もっていくことにしました。
わざわざ断る必要もないので。
その山は車で1時間くらいのところにあります。
ひどい道をとおっていくので、当然ながらヒトケはありません。
未舗装の道を何十分も進んでいくとその廃村につくみたいです。
私は地図と照らし合わせながら進んでいきました。
山道をしばらく走っていくと、やがて道が途切れ、そこから先は歩いて進むしかありませんでした。
車を降りて、地図を片手に山道を歩いていきます。
周りは森に囲まれていて、鳥の鳴き声や虫の声だけが聞こえてきます。
20分ほど歩いたでしょうか。
森の中に、ぽつんと廃屋が見えてきました。
いくつか並んでいます。
どれもぼろぼろで、明らかにひとが住んでいる気配はありません。
「ここが、その廃村かな…」
そう呟きながら、
その廃屋に近づいていきます。
すると、不意に背筋に冷たいものを感じました。
すうっと冷たい風が背筋を這ったような感覚がしました。
振り返ってみても、誰もいません。
ただ、風が吹いただけだと自分に言い聞かせ、
廃屋の中に足を踏み入れました。
廃屋の中は、思ったよりも綺麗な状態でした。
外から見るとボロボロでしたが、意外と中は崩れていない。
つい最近まで人が住んでいたといわれても納得してしまいそうです。
部屋を探索していると、ふと古めかしい鏡が目に入りました。
埃をかぶったその鏡に、何かが映っています。
「ひっ!」
よく見ると…そこに映っているのは、
私の姿ではなく、見知らぬ女性の顔でした。
「な、なんなのこれ……」
思わず声が漏れてしまいました。
鏡の中の女性は、
じっと私を見つめています。
一瞬、
目が合ったような気がして、慌てて目をそらしました。
そのとき、ふと気づいたのです。
友人からお守りをもらってきたはずでした。
でも今、ポケットの中を探っても、お守りが見当たりません。
「落としたかな…?」
そう呟きながら、再び鏡を見ると、女性がこちらに背を向けています。
鏡の奥の方へ去っていくようでした。
そして、手を引いて人を連れていっています。
それはよく見ると私自身の姿でした。
鏡の奥につれていかれ、私の姿をしたものは消えていきました。
「え…?あれは、私だった……?」
混乱しながらも、鏡に手を伸ばしました。
するとその瞬間、背後から囁くような声が聞こえてきたのです。
「にげて……」
お守りをくれた友人の声のようにも聞こえました。
その声に、私は飛び上がらんばかりに驚きました。
振り向くと、そこには誰もいません。
でも、まるで耳元で囁かれたかのような、
リアルな声でした。
恐怖に襲われ、
私はその場から逃げ出しました。
廃村を後にし、
必死で山を下りました。
車に乗り込み、我に返ると、冷や汗が止まりませんでした。
「一体、あれは何だったんだろう…」
そう呟きながら、ふとお守りのことを思い出しました。
「あ…!」
確かにポケットの中にいれておいたはずですが、
やっぱりお守りは見つかりません。
そして、あの女性の姿は一体…?
あの女性が鏡の奥に連れていったのは。
あれは私の姿に見えました。
でも私は何ともありません。
もしお守りがなかったら、連れていかれていたのは私だったのかも。
そう思ってしまいました。
今思い出しても、ぞっとします。
私は再び車を運転して家に帰りました。
そして友人に連絡をとります。
「あのお守り、どこで手に入れたの?」
「ん? あれ、お寺で買ったやつだけど」
「そう、わかった。ありがとう」
友人の話では、
特に由来はないようでした。
でも、私にはわかるのです。
あの女性の霊は、私を連れ去ろうとしていたのだと。
あのお守りが身代わりになってくれたのだと。
「あのお守り役に立ったよ、ありがとう」
「え? まあ別にいいけど、役に立ったならよかった」
友人もついでで渡した程度にしか思って内容で、よくわかっていないようでしたが、
私は感謝しました。