私はネットカフェでバイトをしています。
現在大学3年目で、一人暮らしをしています。
ネットカフェのバイトは、開いたブース(個室)の片づけと、お客さんへの料理の提供、フロアの掃除、レジ打ち業務(この辺は自動化もされてるので大したことはしない)、ぐらいです。
その日は深夜勤務で入ってました。
深夜の時間帯ですけど結構お客さんが入ってます。
ネカフェだと夜の方が多いかも。
いろんなお客さんがきます。
マンガの棚を行ったり来たりして、
ひたすらマンガ読んでるんだろうなって人。
多分オンラインゲームにはまってるんだろうなって人。
寝にくるひと。
カタカタとキーボードを叩く音、ページをめくる音、そしてマウスのクリック音が、聞こえてきてました。
で、うちのネットカフェはブースによっては、お客さんがちょっと見えるんですよね。
もちろん仕切りはしてるんですけど、ちょっと背伸びすれば、モニターが少し見える。
後ろがわからのぞく感じって言ったらわかりますかね?
まあとにかくモニターがちらっと見えるんです。
フロアの掃除中に、なんとなくそのブースに目をやった私は、ついモニターに目が行ってしまいました。
普通ならそんなにじろじろ見ないんですけど、そのモニターに思わず釘付けになってしまいました。
そのブースには中年の男性が座っていて、その男性は夢中でモニターを見ていました。
で、そのモニターには、やけに赤色が多い画像が写ってて、なにかと思ったら、まあ、なかなか見るに堪えない画像というか、ホラー系の画像が写ってたんです。
「うええ」
おもわずうめき声をあげました。
多分、私の声もそのブースの男性に聞こえていたと思いますが、その男性は全く気にせずにモニターを必死に見ているようでした。
ひどいものを見ましたが、まあお客さんの趣味にケチをつけても仕方ないと思って、
業務に戻りました。
そして、2時間くらいして、そのお客さんが帰っていきました。
私はそのブースの清掃に行きます。
中を見てみると、画面はそのホラー系の画像が写っているままでした。
「ひどいもん見てるなあ……」
戸惑いながらも、私は清掃をします。
そこで机の上に紙が置いてあることに気づきました。
「〇〇の日記」
と書いてあります。
「なんだろこれ」
私はそのときは特に気にせずに、紙をゴミ箱にすてて、
清掃を終わらせました。
その日のバイトが終わって、家に帰ってきたとき、ふとその
「〇〇の日記」
という単語を思い出しました。
「ひょっとして……」
私は自分の部屋にあるパソコンに向かって、
ウェブページを開き、
「〇〇の日記」
で検索します。
するとホームページが出てきました。
「あー、あの人はこのサイトを見てたのかなー」
私は、なんとなくそのサイトを見てみました。
すると、人間の体の画像が出てきました。
ホラー系のではありませんが、裸の画像でした。
男女関係なく、掲載されてるみたいです。
「なんだ、このサイト」
こういう感じのサイトには興味なかったんですが、なぜかこの日は気になってしまい、
そのページを少し見てみることにしました。
サイトをスクロールしていきます。
裸の画像が延々と続いています。男性、女性、老若男女問わず、さまざまな体型の裸体が画面狭しと並んでいるのです。
しかし、よく見ると、それらの画像には奇妙な共通点があることに気づきました。
全ての人物の体には、赤い線が引かれているのです。
まるで、解剖図のように、細かく体の部位が区切られています。そして、それぞれの区画には、奇妙な文字や記号が書き込まれていました。
「なんだこれ……」
私の中で、フロアの清掃中に見えたホラーな画像が頭をよぎります。
この赤い線は切込み線みたいなものなのでは?
体が切り込まれた結果を、あの男性は見ていたんじゃ……。
ふたたび画面に目を向けます。
するとその時、画面が突然真っ赤に染まりました。そして、中央に一つの文章が浮かび上がったのです。
「あなたは選ばれました。」
その文字は、まるで生きているかのようにうねうねと動いています。
「うわああ」
思わず声をあげます。
文字はどんどん大きくなり、画面を埋め尽くしていきました。
「な、なんで!?」
サイトを閉じようとしましたが、閉じるボタンを押しても反応がありません。
カチカチとクリックしても何の反応しないまま、その文字は大きくなるだけでした。
段々、私は意識が遠のいていくのを感じます。
眠っていくように目を閉じていきました。
目が覚めると、見知らぬ空間にいました。そこは薄暗く、無数のモニターが並んでいる部屋でした。
モニターには、例の裸体の画像が映し出されています。
「こんにちは」
背後から、低く重い声が聞こえてきました。振り向くと、そこには例のネットカフェで見た中年男性が立っていました。男性の目は、真っ赤に染まっています。
「ご協力に感謝します」
男性はニヤリと笑うと、私に向かって歩み寄ってきました。
逃げ出そうとしましたが、体が全く動きません。男性の手があなたに伸びてきて……
その時、私は飛び起きました。自分の部屋でした。
椅子に座って、モニターの前にいました。
「夢……だったのか?」
いつのまにか寝落ちしてしまったようです。
「めちゃくちゃ怖かった、あんな変な男のことなんてきにしなけりゃよかった」
悪い夢だった。
私はそう思って、モニターを見ます。
サイトには404エラーの表示。
存在しないページを開いているエラーの表示。
「あほらし、風呂入ろ」
そういってパソコンの電源を落としました。
「今日はつかれたな、なんか」
私は服を脱ぎます。
ふと自分のおなかのあたりに目をやって、言葉を失いました。
赤い線が正中線にそって引かれていました。